チョコレートとワインのあれこれ

チョコレートとワインのあれこれ

寒い冬はチョコレートがよりいっそう美味しい季節。チョコレートの味わい方の一つとしてワインとのペアリングがありますが、ポイントを抑えると素晴らしいマリアージュが生まれます。そもそもこの二つの嗜好品、その起源や成分を辿ってみれば、あちこちに共通点があり意外にも近しい存在であることがわかります。というわけで、今回はチョコレトとワインのあれこれに関するお話です。


お酒の原料だったカカオ

チョコレートが発明されるよりはるか昔。人類がカカオに魅了されたきっかけは、カカオから作られるお酒「カカオワイン」でした。一体、いかにしてカカオからお酒ができるのでしょう?そのプロセスは、チョコレートの原料カカオ豆の作り方ともリンクしています。


生のカカオの実をチョコレートの原料カカオ豆へ仕込む段階で欠かせない重要な工程に「発酵」があります。
カカオの実を割って取り出した果肉を木箱に積み上げ、バナナの皮や布をかぶせるなどしてよく発酵させたのち、天日干しと焙煎を経てカラカラのカカオ豆が出来上がります。発酵の工程がなぜ重要なのかというと、これにより渋みや苦みを和らげると同時に、チョコレート特有の香りの元となる物質が生成されるため。あの魅惑的な味わいは、すべて発酵がなせる業なのです!発酵した果肉はどろどろと溶けていき、アルコール度数57%の液体に変化し、果肉の中の種子に染み込み乾燥段階で消えていくのですが、紀元前1400年頃にグアテマラの先住民は、この発酵した液体を「カカオワイン」として嗜んでいたとされています。よく熟れて木から落ち、地上で自然発酵していたカカオの実を見つけ、芳醇な香りと美味しさに魅了された人類は、この発酵飲料を自ら作り出すためにカカオの栽培を始めた…という説まであるほどです。現代ではチョコレートに使用されるカカオの実、古くはワインにおけるブドウだったのです。


薬処方されたチョコレートとワイン

チョコレートとワイン、どちらも「ポリフェノール」が豊富に含まれています。ポリフェノールとは、植物が紫外線や害虫、菌などのダメージから身を守るために作り出す色素成分で、人間や動物が摂取すれば体内の有害物質を無害に変えるはたらきがあります。体内に溜めておくことはできないので、近年はチョコレートもワインも「日々少しずつ摂取すると体に良い」等とされていますが、科学の力でこれらのことを解明する以前から、昔の人々はチョコレートとワインのどちらも「薬」として扱っていました。

前述のカカオワインとはまた異なる「ショコラトル」という飲み物は、乾燥したカカオ豆を煎ってすり潰し粉にしたものを水で溶いたもの。古代マヤ文明や古代アステカ文明で皇族や側近など高位の人間のみが口にすることができた、いわゆるチョコレートの始まりと言われる飲み物です。これを歯痛、喉の痛み、食欲不振、解熱、毒消しなどさまざまな症状の治療に用いてきました。一方、古代ギリシアのヒポクラテスは、発酵飲料であるワインの効用を当時から見抜き、症状に応じてハーブなどをブレンドし患者に処方していたとされます。

ポリフェノールの中でも、ブドウに含まれる「レスベラトロール」は、記憶力の回復や長寿遺伝子の活性化などの健康効果が見込まれることから近年注目されています。このレスベラトロールは、カビや細菌に汚染されたり栄養の変化があるなど「ブドウが損傷やストレスを受けること」をきっかけに合成されるものです。外的刺激に応じ、対抗するために植物が内側から生み出す成分が、人間や動物にも十分な健康効果をもたらすとは、自然の底力を感じます。


ますます近づくワインとチョコレート

このように起源や成分が似通うチョコレートとワインですが、最近ではもう一つ相通じるところあり、ますます近しい存在になりつつあります。それは、どちらにも「産地や生産背景まで知って味わう」という楽しみ方があるということ。



ワインの味わいは、原料であるブドウ自体の味のみならず、ブドウの育った畑の土壌、地形、天候を含むあらゆる環境にも由来するため、それらを包括して「テロワール(環境、背景)」と表現し着目するように、チョコレートにおいても産地ごとのカカオの個性を生かした配合や製造工程を工夫した作り手が増えています。カカオ豆から板チョコレートになるまでのすべての製造工程を一貫して行うチョコレート生産方法「Bean to bar」が2000年代にアメリカで始まって以降、チョコレート業界への一大ムーブメントとなり、今やヨーロッパや日本へも浸透しています。さらにはカカオの樹の生産から取り組む「Tree to bar」、農場の管理に携わる「Farm to bar」など、カカオとの関わり方を明示する言葉の種類も増えています。そして、ワインでいうところの「単一畑ワイン」のように、カカオの育った産地の風土や個性をより際立たせたチョコレートは「シングルオリジンチョコレート」として楽しまれています。芳醇な味わいや香りにのせて、生産背景にまで思いを馳せ味わうことは、世界中の情報が手に入りやすい現代ならではの楽しみ方の一つかもしれません。


チョコレートとワインのあれこれでした。これらの類似点は双方の生産者同士を結び付ける接点となり、タッグを組むワイナリーとショコラトリーも増えています。ワインを醸造した樽の中でカカオの実を熟成させ、ワイン特有の果実味を伴うチョコレートを作る、というなんとも贅沢なコラボレーション技術なども新たに開発されているそうです!私たちを魅了するチョコレートとワイン、この二つの食材が持つポテンシャルにますます目が離せません。