カタルーニャの濃厚な骨スープ「エスクデーヤ」

カタルーニャの濃厚な骨スープ「エスクデーヤ」


今週末はクリスマスです。今回は、カバの産地であるスペインのカタルーニャ地方でクリスマスの晩餐にかかせないという定番料理「エスクデーヤ」を紹介します。“Escudella”はラテン語で「小さな盾」を意味する”scutella”に由来した言葉で、カタルーニャ語でスープボウルのことを指すのだそう。

この黄金のスープ「エスクデーヤ」の特徴は、複数種類の肉や骨のダシをしっかりと取ること。鶏の枝肉やガラ、オックステール、豚足や豚の耳や顔、ハムの骨などを大きな寸胴鍋に放り込み、およそ7Lもの水でぐつぐつと煮込みます。時間を掛けて煮出す動物由来の濃厚なダシ汁こそがこの料理の軸となり、リッチで濃厚な一品です。

またいくつかのバージョン違いが公式に存在しており、この骨スープに各種の刻んだお野菜とパスタやお米を入れ、『ごった煮』風にしたものを”エスクデーヤ・バリガダ(barrigada=太鼓腹)"、各種肉類や”ピロタ”という巨大なミートボール(というか、ほぼハンバーグの大きさ!)が入る”エスクデーヤ・カーン・ドヤ(carn d'olla=肉の鍋)"。

そして、豚・牛・鶏・羊の4種の肉と”ガレ”と呼ばれる大きな袋状パスタに肉詰めしたものが入った豪華祝日バージョンが”エスクデーヤ・ダ・ナダル”(Nadal=クリスマス)、つまり「クリスマスのスープ」と呼ばれるほどの定番料理。今回は、この”エスクデーヤ・ダ・ナダル”に挑戦してみました。

≪材料(エスクデーヤ)≫
・豚スペアリブ300g
・牛すね肉200g
・骨付き鶏もも2本(およそ400~500g)
・ラムチョップ2本(およそ100~150g)
・ホワイトソーセージ4本
・ベイリーブス2枚
・にんにく2個
・玉ねぎ1個
・キャベツ1/4
・にんじん1本
・じゃがいも1個
・カブ2個
・ひよこ豆の水煮缶100g
・塩小さじ4
・コンキリエ適量 ※ショートパスタでも代用可

≪材料(ピロタ)≫
・牛豚合い挽き肉300g
・にんにく1個
・パセリ小房1~2つ分(お好みで)
・塩2つまみ
・卵1個
・パン粉30g
・牛乳60ml
・小麦粉適量(打ち粉として)

※直径23cmの鍋を使用




【1】肉類を煮込む

圧巻の肉類を鍋に入れ、水1.5~2L弱ほど注ぎ、にんにく2かけと小さじ2の塩、ベリーフ2枚を入れぐつぐつ煮込みます。火加減は中~強火程。

・15分もすると次々に灰汁が湧いて出るので、すくっていきます。

★ポイント★
中火程度で長時間煮込む料理なので、水位が減り肉や骨が露出しそうになる度、都度水を注ぎ足してトータルの量を保っていきましょう。



・1時間経過したら、一旦鶏肉を救出してまだまだ豚・牛・羊を加熱します!スープが少し白く濁ってきます。この時点ですでに美味しいダシが取れています。

・2時間経過、スペアリブの外側の脂がすっかり溶けて、かなり白濁としてきました!さらに10分ほど煮た頃、スペアリブの骨が肉からするっと取れました。



【2】煮汁を濾し、野菜を煮る

豚・牛・羊を取り出してから、残った煮汁を網で濾すと…濃厚なスープが。ぐつぐつした甲斐あり、塩のみの味付けと思えない美味しさです…!

・スープ表面の油脂をお好みで取り除いてから塩小さじ1を加え、キャベツ、人参、じゃがいも、たまねぎ、かぶを鍋に入れて、中火で煮込みます。ここでも改めて水分量を見て、適宜注ぎ足しましょう。

【3】ピロタの種を用意する
・挽き肉、にんにくとパセリのみじん切り、牛乳に浸したパン粉、卵、塩を捏ねてピロタの種を用意します。

・30分ほどで野菜が煮えるので、順次煮崩れないうちに取り出してお皿へ盛り付けます。



・捏ねたピロタを2つに分けてまとめ、小麦粉をたっぷりまぶしシュトーレンのような姿にして、ホワイトソーセージ、ひよこ豆と共にスープに沈め20分ほど中火で煮込みます。

【4】パスタを茹でる
・最後にパスタを茹でます。"ガレ"というパスタにピロタの肉を詰めるのが本流ですが、今回はコンキリエで代用。指定時間に応じそのまま茹で、お湯を切りオリーブオイルを回しかけておきます。

・ピロタに爪楊枝を刺して、流れる肉汁が透明だったら出来上がり!ソーセージやひよこ豆と共に鍋から取り出します。鍋に残ったスープにコンキリエを入れて温めて、スープ皿へ盛り付けます。



このように ①前菜としての野菜 ②パスタ入りスープ ③メインのお肉 をそれぞれ分けてサーブして、エスクデーヤ・ダ・ナダルが完成します!

今回は、カバ トレゾール キュヴェ・バリック グラン・レセルバとペアリングしてみます!煮込み料理×スパークリングという、少し変わった組み合わせです。

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お肉はオリーブオイルと塩でいただくのがオーソドックスな食べ方とのこと。質素な味わいを想像するも、実際はよく煮込まれ脂の馴染んだ柔らかいお肉やピロタにオリーブオイルの旨味が絡んで、思いのほかリッチで豪華な印象です…!

口の中でほどけていくキャベツやカブは、スープの旨味をしっかり吸収して滋味深く、寒い冬にたまらない味。樽発酵と長い瓶内熟成を経て造られた上質なカバは、熟成による滑らかな酸味とトースティな風味でボリューム感があります。旨味たっぷりのスープと同等の強さがあり、こっくりとした味わいへ寄り沿いながらも良いアクセントを与えます。

豚・牛・鶏・羊の4種の肉は、それぞれがキリストの4人の使徒を表しているのだそう。今回はコンセプトを守るためラムチョップを少量使用していますが、ラムが手に入らない場合は入れなくても十分美味しいです。また、もし可能であればゲンコツや豚足、セガラなどを追加すると、より濃厚に仕上がるのでおすすめです!

肉と骨でダシを取り、さらに鍋いっぱいのお野菜でダシを取り、しまいには肉団子とソーセージのダシまで加わったスープ。一見シンプルに見えますが、外観の何倍もリッチで濃厚です。ちなみに、ダシを取った肉を細かくほぐしてスープに戻し、野菜を賽の目切りにして煮れば、冒頭でいう”ごった煮”風のエスクデーヤ・バリガダ(barrigada=太鼓腹)になります。

その場合、マカロニやお米など細かめの炭水化物を入れて仕上げることが多いようで、肉・野菜・ごはん全てをスープに浸して食べるこちらは、さしづめ「鍋の〆のおじや」のよう。日本人により馴染みのある味わい方かもしれません。

秒刻みの忙しい現代で時短調理は何かと重宝しますが、年末くらいはゆっくり骨からダシを取り味わうという贅沢な時間を味わって、骨休めしてみてはいかがでしょうか!



余談です。

「クリスマスに子どもたちへプレゼントを配る=サンタクロースの仕事」というのは国境を越えて世界共通と思っていたのに、カタルーニャではプレゼントを配布するのはサンタさんの役目ではありませんでした。では、一体誰がカタルーニャのこどもたちにプレゼントをあげるのでしょう?



答えは、この丸太。名前は、カガ・ティオ。カタルーニャ語で「排便をする丸太」の意味があります。

12月の上旬、クリスマスマーケットで大量に並ぶこの可愛い丸太カガ・ティオをお父さんお母さんが持ち帰り、こどもたちは毛布を掛けてあげたりお菓子やナッツのお供え物をするなどしてせっせとお世話をします。



そしてクリスマスイブ。お父さんお母さんはカガ・ティオの毛布の下にプレゼントを忍ばせ、子どもたちは「プレゼントを出しておくれ~♪」と歌いながらカガ・ティオのお尻を水で濡らした木の棒で叩くというイベントを行います…!なんと、毛布の下から出てくるプレゼント=カガ・ティオの排泄物という設定なのです。自然連鎖の恩恵に感謝をするカタルーニャならではのユニークなクリスマスの文化です。

初めから終わりまで可笑しさがこみあげてきますが、この風習に慣れ親しんでいる現地の方にとっては当たり前の感覚なのかと思いきや、スペインのワイナリー ペレ・ベントゥーラ のご担当さん曰く「Caga Tió is the funniest thing ever(本っ当におかしいわよね~!)」とのこと。現地の方とっても十分ファニーな風習のようで、これまた笑ってしまいました。