乾燥パスタの名産地、グラニャーノ

乾燥パスタの名産地、グラニャーノ

イタリアを代表する食品の一つであるパスタ。イタリア語では「小麦を練って作った食品」の総称ですが、言わずと知れたイタリア式の麺類のことです。

現在では世界中で当たり前のように消費されていますが、同じパスタであってもスパゲッティ、ファルファッレ(Farfalle)、ペンネにコンキリエ(conchiglie)など様々な形状のものがおよそ500以上も存在します。

これは、それぞれの地域や階級ごとに工夫されながら食べられた結果、地方の風土と素材を生かした郷土料理の数々が生まれたためです。きらびやかな宮廷料理のために料理人が考案したパスタがあり、祝祭を迎えた民衆が節目のご馳走のために作り出したパスタがありました。それらは時に肉詰めであったりなかったり、ロングであったりショートであったりと、場面ごとの必要に応じ姿を変えてきましたが、500もの種類が現代でも伝わっているのは、各地で今も根付く郷土愛を現しているようです。

様々な種類の乾燥パスタ

ところで、パスタには乾燥パスタ(Pasta secca パスタ・セッカ)生パスタ(Pasta fresca パスタ・フレスカ)がありますが、パスタの本場イタリアなら全土のご家庭でモチモチの生パスタを食べているように思いませんか? 実は乾燥パスタと生パスタのどちらを主に食べるかという点も、風土に由来しています。

山間部である北イタリアと、海に面した南イタリアでは収穫できる小麦の種類が異なるため、北イタリアでは軟質小麦で作る生パスタが、南イタリアではデュラム小麦で作る乾燥パスタが主に食べられ、また南にいくほどアルデンテが好まれる傾向にあるのだそうです。

そもそも生パスタは古代ローマの「プルス(お粥状のもの)」や古代ギリシャの「ラーガネ、ラガノン(ラザニア状のもの)」が始まりと言われていますが、一方で乾燥パスタはアラブの商人がシチリアへ伝えたとされ、一口にパスタと言えど生か乾燥かではルーツからして異なり、似て非なるものなのです。

さて今回は、主に南イタリアで食べられる乾燥パスタに焦点を当てたお話です。

アラブ人が砂漠を旅する際、小麦粉をそのまま携帯すると腐ってしまうため、水を練り込み中心に穴をあけ乾燥させ、保存性を高めたことが乾燥パスタの起源と言われています。9世紀ごろシチリアを統治していたアラブの人々が、灌漑設備と共に、この乾燥パスタをシチリアへ持ち込みました。

もともとシチリアでは乾燥パスタの原料であるデュラム小麦の栽培が盛んであったことに加え、水車を原動力に小麦を大量に挽くことができるようになったこと、そして一年中太陽の光が照る乾燥した気候がパスタを乾かすのに向いていたことから、シチリアで乾燥パスタが作られるようになります。

やがて航路を通じシチリアからジェノヴァ、ナポリへ渡り特産品として有名になると共に需要が拡大、それらの地域でも乾燥パスタ作りが広まります。16~17世紀頃には職人の技術向上や価格統制のためパスタ製造者の組合の設立やパスタ工場の急増、17~18世紀にナポリで飢饉が起きた際には肉や野菜に替わって乾燥パスタが人々のおなかを満たしました。

18世紀のイタリアの街並み

パスタ手工業の黄金期を迎えた19世紀、その中心地であったのはナポリ近郊の町グラニャーノ(Gragnano。ラッタリ山脈の新鮮な湧き水を使い、山と海の両方から吹く風により湿度を保ってゆっくり乾き熟成されたパスタは風味がよく、1845年にフェルディナンド2世が宮廷に『パスタはグラニャーノ産のものを調達するように!に命じたほどです。

当時、現地の人口の約70%がパスタ生産に従事し、毎日100,000 kgものパスタが生産され、それらをずらっと屋外に並べて天日干しする圧巻の光景がローマ通りからトリビオーニ広場まで続きました。ついには、パスタ作りの環境をより整える目的でグラニャーノの町全体を再建設し、各生産者の上へ平等な日当たりが確保されるようになり、1885年には乾燥パスタの輸出のためにグラニャーノから輸出港のあるナポリへ続く鉄道が結ばれました。

しかし、乾燥工程の機械化により、北イタリアやイタリア国外でもスピーディに乾燥パスタが生産され始めた20世紀、グラニャーノの町並みを彩っていた天日干しは衛生面を理由に禁止されるようになり、この地域の小さなパスタ工房は機械化の波に呑まれていきました。

パスタを天日干ししている様子

現在も残るグラニャーノの生産者たちの多くは、機械化に移り変わっても極力天日乾燥に近い環境で丁寧な乾燥処理を行い、地元の湧き水を使用したパスタを作り続けています。

そして2013年、グラニャーノ産のパスタ(Pasta di Gragnano)が、欧州の品質保証制度のひとつである保護指定地域認証表示「I.G.P.(INDICAZIONE GEOGRAFICA PROTETTA)」を取得しました。この認証が付くのは、パスタにおいて初めてのこと。

これは製造面における一定の条件をクリアしたグラニャーノ産のパスタのみに与えられ、その条件の中に「低温長時間乾燥していること」「ラッタリ山の湧き水を使用していること」等の伝統的製法を踏襲していることも含まれています。

世界中で乾燥パスタが生産されている現代において、グラニャーノ産のパスタが改めて公的に認められたのは、黄金時代の職人の意思を継ぎ当時の味を守るべく努めた現生産者たちの努力の賜物ではないでしょうか。


今もなお乾燥パスタの町として知られるグラニャーノ。パスタを外でずらりと乾かす圧巻の景観を現代では見ることができませんが、乾燥パスタの名産地としての誇りと郷土愛の根付いた場所です。

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